モイゼルト軟膏
2022年6月1日に大塚製薬から「モイゼルト軟膏(一般名:ジファミラスト)」という、ステロイド外用剤、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏といったこれまでの薬とは異なる作用機序を持つ新しいアトピー性皮膚炎の非ステロイド外用剤が発売されました。
モイゼルト軟膏はアトピー性皮膚炎に対する国内初の外用PDE4阻害剤です。 PDE4(ホスホジエステラーゼ4)を選択的に阻害することで炎症および抗炎症に関与する物質の発現を調節し、皮膚の炎症を抑えてアトピー性皮膚炎の症状を改善します。
モイゼルト軟膏の作用機序
アトピー性皮膚炎の原因は明確にはわかっていませんが、家族歴・既往歴・外的要因・環境要因(ストレス、食生活等)などにより、炎症反応が引き起こされることで発症すると考えられています。
炎症反応には免疫細胞内のcAMP濃度が関係することが知られており、cAMP濃度が低いと炎症が促進され、cAMP濃度が高いと炎症反応は抑制されます。 アトピー性皮膚炎の方は免疫細胞内のcAMP濃度が低下していることがわかっており、免疫細胞が活性化して炎症が引き起こされています。
モイゼルト軟膏が阻害するPDE4と呼ばれる酵素は、cAMPという物質をAMPに分解する役割があります。 モイゼルト軟膏を外用するとPDE4を阻害しcAMPの分解を抑えることで濃度が低下しなくなり、炎症を緩和します。
モイゼルト軟膏の適応
2歳以上~14歳以下の小児のアトピー性皮膚炎の方
15歳以上~70歳以下の成人のアトピー性皮膚炎の方
軽症のアトピー性皮膚炎からお使いいただけます。
使用方法
モイゼルト軟膏は濃度が2種類(0.3%・1.0%)あります。
2歳以上~14歳以下の小児のアトピー性皮膚炎の患者さまはモイゼルト軟膏0.3%か1.0%のいずれかをお使いいただけます。 ただし「小児に1%製剤を使用し、症状が改善した場合は、0.3%製剤への変更を検討すること。」と記載があり、1.0%製剤は短期間の使用にとどめることとされています。
15歳以上~70歳以下の成人のアトピー性皮膚炎の患者さまはモイゼルト軟膏1.0%製剤とされており0.3%製剤はお使いいただけません。 使用方法は小児・成人とも1日2回適量を患部に塗布して使用します。 1回の塗布量の制限はありません。
副作用について
モイゼルト軟膏は重篤な副作用は特になく安全性の高い薬剤です。 併用禁忌、併用注意は設定されていません。 0.5%以上の頻度で色素沈着障害、毛包炎、そう痒症などの副作用が発生する場合があります。
妊婦の方、授乳中の方への使用について
妊娠又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないことが望ましいとされています。
授乳婦に対しては、動物実験(雌ラット)において、乳汁中への移行が認められていますので治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討することとされています。 また妊娠可能な女性にはモイゼルト軟膏を使用中止後2週間程度の避妊を行うこととされています。
さいごに
モイゼルト軟膏はステロイド外用剤ほどの効果はありませんが、プロトピック軟膏やコレクチム軟膏のようにステロイドで症状が良くなったあとの維持治療に使うのにいい外用剤だと思います。
当院ではアトピー性皮膚炎の症状に対し、内服、外用、デュピクセントなどの生物学的製剤、エキシマライト照射などの治療法を患者様の状態に応じて提案させていただいています。
アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患ですから、症状が落ち着いた良い状態を保つことが治療目標です。 そのためにも安全で副作用が少ない治療の選択肢が増えたことに期待したいですね。